介護老人保健施設(老健)を利用してみたいけど、どんな施設なのかしら?
このように
- 介護老人保健施設を利用したいけど、どんな施設か詳しく知りたい
- 介護老人保健施設はどうやって選べばいいかわからない
- 介護老人保健施設の入居条件や入居費用が気になる
など上記の方々はこの記事を読むことで解決できます。
この記事では、介護老人保健施設(老健)とは?、事業所数、利用者数、サービス内容、料金・費用、入居条件、1日の流れ、メリット・デメリット、利用方法・選び方、などについてわかりやすく解説していますのでぜひ参考にしてみてください。
介護老人保健施設(老健)とは
「介護老人保健施設」とは、通称:(老健:ろうけん)と呼ばれ、介護保険を利用して入所することができ、日常生活上の看護、介護を受けながらリハビリテーションを行い、在宅復帰を目指すための施設になります。
入所する要介護者や家族が安心し自立した生活を続けられるように、医師、看護職員、介護職員、リハビリ専門職、介護支援専門員(ケアマネ)などの様々な専門職が生活の支援をしてくれます。
介護老人保健施設では、多くの施設で短期入所療養介護(ショートステイ)、通所リハビリテーション(デイケア)や訪問リハビリテーションのサービスを提供し、在宅支援にも力を入れています。
リハビリの提供により在宅復帰を目的とした施設
介護老人保健施設は、介護保険法(第8条第28項)で
「介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設」
と定義されています。
つまり、居宅=在宅に戻ることが可能な方を対象として、ケアやリハビリを提供することにより「在宅復帰を目指すことを目的とする施設」と位置付けられています。
待機期間
介護保険施設の中でも、終の棲家と言われる特別養護老人ホームは全国で30万人近い方が入所待ちをしていると言われています。
一方、介護老人保健施設は在宅復帰を主な目的とするため、施設への入退所が頻回にあります。その為、入所者の入れ替わりが早く待機期間は比較的短い傾向にあります。
特に在宅復帰に力を入れている介護老人保健施設では、ベッド回転率(入退所数)を重視するため比較的短期間で入所する事が可能と言われます。
なお、各施設の待機者数は「厚生労働省 介護サービス情報公表システム」で検索することが可能です。
また、市区町村のホームページ等において公表されている場合もあります。
受給者数
介護老人保健施設の受給者数(利用している人数)は、毎年徐々に増加しています。
実際に利用する人のうち、要介護3・4の受給者で約半数を占めており、平成28年度の入所者の平均要介護度は3.21となっており、対して通所者の平均要介護度は2.01となっています。
参考 独立行政法人福祉医療機構:平成28年度 介護老人保健施設の経営状況
介護老人保健施設(老健)の入居条件・基準
介護老人保健施設へ入所できるのは、要介護1から5の認定を受けている方に限られます。
原則として在宅復帰を目的とする施設なので、長期間の入所を目的として入所する施設ではありません。
一般的には、3ヶ月を目安として集中的にリハビリテーションを提供し在宅復帰を目指し、退所が可能と判断された場合には退所しなくてはなりません。ただし、法的には入所の期間についての制限はなく、施設独自の判断になります。
施設へ入所すると集団での生活を送る事になりますので、感染症にかかっている場合や入院が必要な身体状態の場合は入所が出来ない事があります。
また、介護老人保健施設に入所した場合は施設の医師により投薬が行われます。服薬している薬の状況や、定期的に受診が必要な場合などは施設の判断により入所を断られる場合があります。
介護老人保健施設(老健)のサービス内容
介護老人保健施設では、医師、看護・介護職員、リハビリ専門職、栄養士など様々な専門職が協力して入所者の生活を支援してします。
そこで受けることが出来るサービスは、リハビリテーションや医療、看護介護、退所に向けた支援など多岐に渡ります。
リハビリテーション
介護老人保健施設で提供されるリハビリテーションは、様々な専門職が意見を出し合い入所者個人にあったリハビリテーション計画を作成し、作業療法士や理学療法士、言語聴覚士などのリハビリテーション専門職により提供されます。
具体的には、自宅に戻った際にどのような問題点があるか等、事前に自宅に伺って生活環境を確認したり、本人や家族の目標や思いを聞いたりした上で計画を作成します。
特に、入所から3ヶ月については集中的なリハビリテーションを提供する施設が多くあります。
日常生活上の介護
介護老人保健施設の生活は、介護支援専門員が作成するケアプラン「施設サービス計画」に基づいて送られます。プランの作成にあたっては、各専門職や本人、家族の意向を盛り込みます。
プランに基づいて生活を送る中では、入浴介助や排泄介助、食事介助など、一般的に多くの方がイメージする介護も提供されます。
ただし、食事の提供一つをとっても栄養士による栄養の管理や食事形態(食事の形状)など、その方にあったものを多職種の意見で検討します。
また、ただ漫然とお世話をする訳ではなく、場合によっては入所者本人に出来る事をしてもらい機能が低下しないように見守ることも大事な役割となっています。
医療や看護
介護老人保健施設の大きな特徴として、医師が働いていることが挙げられます。その為、施設での医療や投薬については施設の医師が担当します。
ただし医療機関ではないので設備も限られる場合が多く、専門的な治療が必要な場合は協力病院で治療もしくは入院することが一般的です。
また、介護老人保健施設では看護師も夜勤に入る事が多くあるため、比較的医療依存度が高い方でも入所が可能です。介護施設の中で、医療や看護を受けることが出来るのが介護老人保健施設の特徴として挙げられます。
在宅復帰を前提としていますが、看取りケア(ターミナルケア=終末期医療)を行う介護老人保健施設も多くあります。
在宅生活へ向けての支援
介護老人保健施設は、在宅復帰を目的とした施設ですが「自宅に帰して終わり」という訳ではありません。
多くの介護老人保健施設では、通所リハビリテーションや短期入所療養介護(ショートステイ)、訪問リハビリテーションのサービスも提供し在宅生活を支援しています。
入所中であっても、在宅生活に戻った後のサービス事業所や介護支援専門員との調整や退所前や退所後の訪問などを通じて、継続して在宅生活が送れるように支援をします。
また在宅に戻った場合でも、再び入所が必要になれば再入所し、入退所を繰り返して出来る限り長く在宅生活を送る事が出来るよう支援する事も、介護老人保健施設の特徴と言えます。
介護老人保健施設(老健)の1日の流れ
介護老人保健施設では集団生活の中で、介護やリハビリを受けながら生活を送ります。
施設により異なりますが、代表的な一日の流れの例を見ていきます。
- 6:00起床起床後、トイレ誘導や着替えを行います。
- 8:00朝食朝食前の食前薬がある方には配薬されます
食事後は、食後の服薬、口腔ケアや体調管理のチェック、トイレ誘導が行われます。 - 10:00入浴介助週に2回以上の入浴が規定されています
- 12:00昼食昼食前の食前薬がある方には配薬されます
食事後は、食後の服薬、口腔ケアや体調管理のチェック、トイレ誘導が行われます。 - 13:00入浴介助
- 15:00おやつ
- 18:00夕食夕食前の食前薬がある方には配薬されます
- 19:00食後食事後は、食後の服薬、口腔ケアや体調管理のチェック、トイレ誘導が行われます。
就寝に備えて着替えを行います。就寝前の服薬がある場合には配薬されます。 - 21:00消灯入所者の方は就寝しますが、随時体調管理やオムツ交換が行われます。
随時、リハビリテーションやレクリエーション、医師による診察が行われます。リハビリテーションは、週に2回以上行うことが義務付けられています。
また、時間を決めたトイレ誘導やオムツ交換も一日を通して行われます。
介護老人保健施設(老健)の料金・費用
部屋代・食事代について
施設ごとに部屋代・食事代は異なります。基準となる金額は以下の通りですが「負担限度額認定」を受けているか、受けていないかによって負担する金額が大きく異なります。
特定入所者介護サービス費(負担限度額認定)
基準費用額 (日額) |
負担限度額(日額) | ||||
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | |||
食費 | 1,380円 | 300円 | 390円 | 650円 | |
居住費 | ユニット型個室 | 1,970円 | 820円 | 820円 | 1,310円 |
従来型個室 | 1,640円 | 490円 | 490円 | 1,310円 | |
従来型多床室 | 370円 | 0円 | 370円 | 370円 |
(基準の費用額のため、施設より金額が高い場合があります)
介護老人保健施設(老健)のメリット
介護老人保健施設に入所する際には、メリットだけではなくデメリットも生じる可能性があります。よく理解をした上で、選択をする必要があります。
【メリット1】専門職による手厚いリハビリを受けることが出来る
作業療法士や理学療法士などのリハビリ専門職が配置され、一人ひとりに合わせたリハビリが提供されます。
入所者にとっては、心身の維持や改善、機能低下予防が期待出来るため在宅復帰や社会復帰にも繋がりとても有効です。
【メリット2】入所すると、24時間の介護サービスを受けることが可能
施設へ入所中は、24時間切れ目ない介護を受けることが可能です。
入所期間中は、家族にとっても介護を休息することが出来る貴重な時間となります。
【メリット3】比較的安価な利用料で入所することが可能である
介護老人保健施設に入所するには、入居一時金は必要ありません。所得や資産について一定の要件を満たせば「負担限度額認定」を受けることが出来て、段階に応じて食費と住居費が安くなります。
また、在宅介護サービスとは異なり介護保険で利用できる限度額の枠がありません。それなので、要介護度によって決められた限度額を超えた分が全額自己負担になる、ということがなく、安心して介護を受けることが出来ます。
【メリット4】入所一時金は不要
介護老人保健施設には、入所する際の一時金は必要ありません。
有料老人ホームやグループホームの場合、一般の賃貸住宅で言う所の敷金礼金にあたるような「入所一時金」を求められる場合があります。
介護老人保健施設は役割として、長期間の入所を保障するものではなく一時的に利用するための施設なので、医療機関へ入院した場合などは次の方へベッドを明け渡すことが一般的です。
ただし、施設によっては一定期間ベッドを確保しておいてくれる施設もあります。(その場合も居住費(部屋代)が取られる場合もあります。)
介護老人保健施設(老健)のデメリット
【デメリット1】長期間の入所が出来ない
介護老人保健施設は、在宅復帰を目的とした施設であるために、長期間の入所は出来ません。概ね3ヶ月~6ヶ月を目安に退所となるため、長期間の入所を希望される場合は別の施設を探す選択も必要となります。
【デメリット2】入所中は他のサービスを利用できない
施設へ入所中は、今まで利用していた在宅介護サービスの利用は出来ません。在宅介護で借りていた車椅子や杖なども、老健に持ち込むことは出来ませんので一旦返却して施設で用意するものを使うか、本人が購入したものを利用することになります。
また、介護保険の制度で「他の医療機関への受診は原則出来ない」と決められています。
【デメリット3】大部屋が多くプライバシーに不安がある
介護老人保健施設のうち、84.1%は多床室(大部屋)と言われ、個室は残り16%程度しかありません。
参考 全国老人保健施設協会
【デメリット4】要支援では入所できない
入所したことにより要介護度が改善し、要支援判定を受けた場合は施設入所の継続ができません。
【デメリット5】入所を断られる場合がある
施設によっては、身体状況や病気の状況により入所を断られる場合があります。
また、介護老人保健施設の入所中は施設で投薬が行われ、その費用は入所者が支払う利用料の中から賄われます。別途、利用者の方から薬代を受け取ることは出来ませんので、高額の薬を飲む必要がある方は、入所を断られる場合があります。
介護老人保健施設(老健)の人員配置基準
介護老人保健施設では、様々な専門職の配置が義務付けられています。特に介護保険施設の中でも医療系資格を持った職員配置を義務付けられていることが特徴です。
病院では、医師を中心とするピラミッド型の体制で医療を提供する場合がほとんどです。しかし介護老人保健施設では、利用者を中心として職種間の枠を超えた多職種協同で支える体制を取っていることが大きな特徴と言われます。
医師 | 1人以上(入所者100名に1人) |
薬剤師 | 適当数(非常勤が可能で300名に1人) |
看護・介護職員 | 入所者3名に職員1人(うち看護師は7分の2) |
リハビリ専門職 | 1人以上(入所者100名に1人) |
栄養士 | 1人以上(入所者100名以上の場合に1人) |
介護支援専門員(ケアマネ) | 1人以上(入所者100名に1人を標準とする) |
支援相談員(ソーシャルワーカー) | 1人以上(入所者100名に1人) |
その他 | 歯科衛生士や事務職員、調理員などが実情に応じて配置 |
介護老人保健施設(老健)の施設及び設備
介護老人保健施設では、施設の面積や設備についても厳密に定められています。特に身体的に不自由な方も多くいるため、広さだけではなくバリアフリーを意識した作りにすることが求められています。
基本的には、個人用で利用する設備は少なく共用で利用することを想定されています。その他に、リハビリに力を入れる施設であることから、機能訓練室が充実していることが特徴として挙げられます。
療養室(居室) | 定員4名以下で、1人あたり8㎡以上 |
機能訓練室(リハビリ室) | 1㎡×入所定員数以上 |
食堂 | 2㎡以上×入所定員数以上 |
廊下幅 | 1.8m以上 |
浴室、トイレ | 身体の不自由な物が利用するのに適したもの |
その他 | ナースコールや常夜灯を設ける |
介護老人保健施設(老健)の入居までの流れ
介護老人保健施設に入所する流れは以下の通りです。ここでは、入所を希望する方・施設側の双方の視点から、入所までの流れを見ていきます。
問い合わせ・相談
入所希望者
介護老人保健施設への入所希望を決めて、施設へ問い合わせを行います。
在宅介護で担当してもらうケアマネがいる場合は、ケアマネ経由で施設へ問い合わせしてもらうことも多くありますし、入院中であれば医療ソーシャルワーカーが対応してくれる場合もあります。
施設側
介護老人保健施設への入所は、要介護1以上の認定を受けている必要があることから該当する対象者かどうかを確認します。多くの場合、在宅で担当するケアマネがいる場合は担当するケアマネへ確認します。
見学・説明・申込み
入所希望者
日程を調整し、見学を行います。その場合、入所希望者もしくはご家族が施設へ訪問し施設の概要(施設の体制や利用料金など)を聞くことになります。施設によっては、その場で申込みをすることも可能です。
施設側
入所希望について伺い、どれくらいの待ち期間での入所が可能かを伝えます。介護老人保健施設の役割や目的を伝え、入所の意思を確認したうえで申込みを受け付けます。
入所前の情報収集
入所希望者
利用申込書を記入し、身体状況や生活歴、病歴、家族状況などを記入して提出します。
施設側
主治医やかかりつけの医師から、診療情報提供書(健康診断書)や入院中の場合は看護サマリー(経過記録)を取り寄せます。一時段階として、その書類から入所対応が可能かどうかを判断します。
面談
入所希望者・施設側
施設職員が、入所希望者を訪問し面談を行います。これは、入所希望者をふるい落とすことを目的とする訳ではなく、コミュニケーションを図ったり希望を聞いたりするための重要な機会となります。在宅生活を送る場合は自宅へ、入院中であれば病院へ、ショートステイなどに入所中であれば施設先へ、施設職員が訪問することが一般的です。
入所判定
施設側
申込書や診療情報提供書、面談の記録から入所希望者の生活歴や疾患(病気)、家庭環境や今後の希望などの情報を基に、介護老人保健施設での支援が必要な対象者であるかを多職種で検討します。入所が許可となれば、空きベッドを調整し入所の受け入れを行います。
契約・入所
入所希望者
入所が許可となり施設側の受け入れ体制が整えば、契約を行い施設へ入所します。
施設側
入所を受け入れる体制が整い次第、入所希望者、家族と連絡をとり、具体的な入所日時を決めます。その後、改めて契約を取り交わし入所の受け入れとなります。
おわりに
一言で介護施設と言っても、施設毎に役割や目的が異なります。
その中で介護老人保健施設は、在宅復帰を目的とした施設と位置づけられており、様々な専門職により多職種協同で高齢者の生活を支えています。
自宅での生活に不安のある方が、可能な限り在宅生活を継続出来るよう集中的にリハビリテーションを行うには最適な施設です。
一方、長期間の入所が出来ない施設ですので、入所しても自宅に戻れない場合は次の施設を探す必要もあります。そのような実情を理解し、利用される方に最も適した施設選びを行うことが重要です。