介護職員がうつなどの精神疾患で退職する場合の労災申請方法

介護の転職

高齢者の増加によってますます重要度を増している介護の仕事。しかし慢性的な人材不足と言われる介護業界において、介護職員の労働環境は過酷になる一方です。

かつては介護職員の労災といえば腰痛やケガによるものが多かったのですが、ここ数年は精神疾患のひとつである「うつ病」を原因とする労災申請が急激に増加しています。

労災について詳しく知っている人はまだまだ少ないため、認定されるような業務上の病気であるのに申請すらしていない人も多いと思われます。「労災って何?」「いつ、どうやって申請すればいいの?」など、うつで退職する場合の労災申請について詳しくお伝えします。

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介護職員に増加している「うつ病」

介護職員の労災認定は毎年増加

介護職のキツさというと、これまでは身体の不自由な高齢者を補助する際の体力的な問題が一番に考えられてきましたが、仕事上のストレスによる精神疾患の発症が近年増加しています。

厚生労働省によると、「社会福祉・社会保険・介護事業」における精神疾患を要因とする労災の申請件数は2011年から2014年度までで2倍以上に増加。労災認定された件数も2009年度の10人から2014年度には32人と3倍となり、業種別の順位では2010年度に1位になってからは毎年上位となっています。

 

うつの原因は人員不足や人間関係によるストレス

うつ病をはじめとする精神疾患が介護職員に増えた背景には、人員の不足による業務量の増加が影響していると考えられます。

特に小規模の施設においては人員の不足が常態化していることが多いため、充分な仮眠も取れないワンオペ(ワンオペレーション)と呼ばれる一人体制の長時間夜勤を、月に何度もこなさなければならない状況です。

このような激務で気持ちに余裕がなくなり、職場の人間関係や利用者との関係が悪化することなども、より精神的な健康を損なう原因と思われます。

その上、十分な休養や休日も取れないことから日常的にストレスにさらされ続け、それが病的な状態にまで進み、退職となってしまうのです。このように職務上のことが原因で発症した精神疾患は「労災」と考えられます。

労災とは

パート・アルバイトであっても労災補償される

労災とは「労働災害」の略で、業務中や通勤中にけがを負ったり、業務を原因として病気になった場合に補償してもらえる、労災保険制度のことをいいます。労働者が労災を申請し認定されると、国から保険金が支払われます。

労働者の側では加入手続きは必要なく、正社員のほか契約社員やパート・アルバイト、外国人労働者であっても補償されます。労災保険制度は介護業界に限らず、すべての業種でひとりでも従業員を雇用している会社に、加入が義務付けられているものです。

仮に雇用主が保険料を支払っていなかった場合でも、労災が認定されると国は会社に対して時期を遡って保険料を徴収し、労働者に対する補償を行います。すでに退職している場合でも、時効以前であれば申請することができます

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うつによる労災の認定基準

では、うつなど精神疾患が労災と認められる基準はどのようなものかというと、まず発病原因となっている強いストレスが、業務によるものと判断されることが必要で、それには3つの要件があります。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発症していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月間の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

うつ病の場合は、1つ目の要件である対象の精神障害に入っているので、残り2つの要件を満たすことが必要となります。

 

認定基準の対象となる精神障害を発症していること

認定対象の精神障害は国際疾病分類第10回修正版「精神および行動の障害」のF2~F9に分類される精神障害です。F0の認知症や頭部外傷による障害、F1に分類されるアルコールや薬物による障害は除外されます。

業務に関連する代表的な精神障害として挙げられるのはF3(気分障害)に分類されるうつ病、F4(神経症性障害・ストレス関連障害および身体表現性障害)の急性ストレス反応などで、他には統合失調症、妄想性障害、成人のパーソナリティーおよび行動の障害、知的障害、心理的発達の障害なども対象となります。

国際疾病分類第10回修正版「精神および行動の障害」分類
分類コード 疾病の種類
F0 症状性を含む器質性精神障害
F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
F2 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
F3 気分「感情」障害
F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
F7 精神遅滞(知的障害)
F8 心理的発達の障害
F9 小児期及び青年期に通常発症する行動および情緒の障害、特定不能の精神障害

 

認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月間の間に、業務による強い心理的負荷が認められること

業務による「強い心理的負荷」とは、仕事の失敗、過重な責任の発生、仕事量や質の変化、事故や災害の体験などのことで、労働基準監督署の調査に基づき「業務による心理的負荷評価表」の評価が「強」となる場合に、労災の認定要件を満たしていると判断されます。

心理的負荷が「強」とされる評価基準は「特別な出来事」に該当する出来事がある場合と、該当する出来事が無い場合に分けられます。

要チェック  業務による心理的負荷評価表

「特別な出来事」に該当する出来事がある場合

例えば

  • 極度の長時間勤務(発病前の1か月でおおむね160時間以上、または発病直前の3週間 おおむね120時間以上の時間外労働を行った場合)
  • 生死に関わる極度の苦痛を伴う業務上のケガや病気
  • 業務に関連して故意にではなく他人を死亡させたり重大なケガを負わせてしまったこと
  • 強姦や意思を抑圧された状態でのわいせつ行為など、極度のセクシャルハラスメントを受けたこと

などが「特別な出来事」に当たり、これに該当する出来事が1つでもあれば、業務による心理的負荷は「強」と評価されます。

該当する出来事が無い場合

「特別な出来事」が無い場合でも、評価が強となる例があります。

例えば、発病前の1か月~3か月前の長時間労働がこれに当たり、発病直前の2か月間連続してひと月当たりおおむね120時間以上の時間外労働、または発病直前の3か月間連続してひと月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合など、出来事の評価が「強」と判断されます。

ほかにも、複数の出来事と長時間労働などが関連して、強い心理的負荷があったと評価される場合があります。

評価には発病前6か月間の業務上で起こった出来事が対象になりますが、いじめ、パワハラやセクシャルハラスメントなど、繰り返される出来事に関しては、6か月以前でもそれが始まった時点からの心理的負荷が評価されます。

いじめや嫌がらせを受けてうつになった事例

デイサービスに新人で入社したAさんは上司から連日、度重なる叱責を受けて「死ね」や「早く辞めろ」などの暴言を度々ありました。3ヶ月後、毎日気分が落ち込み、睡眠障害などが生じたため、精神科を受診したところ「うつ病」と診断されました。
<判断>
①Aさんに対する上司の言動は、人格や人間性を否定するようなことが含まれていて、執拗に行われている状況も認められることから、業務による心理的負担評価表(別表1)の具体的出来事29に合致し、総合評価は「強」と判断されます。
②業務以外の心理的負担、固体別要因はいずれも顕著なものはなかった。
①②より、Aさんは労災認定されました。
出典:厚生労働省の労災認定をもとに作成

 

業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

仕事によるストレスが強くても、同時に業務以外の日常でのストレス(家族や親族に関することや、自分自身に関する出来事、金銭問題など)が多かったり、その人の持病や社会適応状況、アルコール依存など、労働者本人に要因と考えられることがある場合には、どれが今回の発病の原因となっているのか慎重な医学的判断が求められます。

病気の原因がほかの要因ではなく、業務上の要因であると明らかにすることが、労災の認定には求められます

労災によって受けられる給付

労災によって受けられる給付金の算定は、おもに給付基礎日額をもとにして計算されます。これは労働基準法の平均賃金に相当する金額で、労災が発生した日の直前3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金を日数で割った一日当たりの金額のことです。(賞与や臨時の賃金は含まれず、1円未満は切り捨て)

労災認定によって受けられる給付は以下の通りです。

療養(補償)給付

治療費など療養に必要な費用が給付されます

 

休業(補償)給付

働けなくなった時に、休業4日目から休業1日に付き給付基礎日額の60%が支給されます。このほかに休業特別支給金として休業4日目から休業1日に付き給付基礎日額の20%も支給されます。

要チェック  休業補償の算定方法

 

障害(補償)給付

治療後に治癒(症状が固定)してから、該当する障害が残った場合に以下の給付を受けることができます。

障害(補償)年金

第1級から第7級までに分類された障害に該当する場合、給付基礎日額の313日分から131日分の年金が支給されます。

第1級 313日分 第5級 184日分
第2級 277日分 第6級 156日分
第3級 245日分 第7級 131日分
第4級 213日分

*その他に以下の特別支給金・年金が支払われます。

障害特別支給金 障害の程度に応じ342万円から159万円までの一時金
障害特別年金 障害の程度に応じ算定基礎日額の313日分から131日分の年金
障害(補償)一時金

第8級から第14級に分類された障害に該当する場合、給付基礎日額の503日分から56日分の一時金が支払われます。

第8級 503日分 第12級 156日分
第9級 391日分 第13級 101日分
第10級 302日分 第14級 56日分
第11級 223日分

*その他に以下の特別支給金と一時金が支払われます。

障害特別支給金 障害の程度に応じ65万円から8万円までの一時金
障害特別一時金 障害の程度に応じ算定基礎日額の503日分から56日分の一時金

 

遺族(補償)給付

労災で亡くなった場合に、遺族が受け取ることができる給付は以下の通りです。

遺族(補償)年金

遺族の数に応じて給付基礎日額の245日分から153日分の年金が支払われます。

その他、以下の特別支給金と年金が支払われます。

遺族特別支給金 遺族の数に関わらず一律300万円
遺族特別年金 遺族の数等に応じ算定基礎日額の245日分から153日分の年金

*算定基礎日額とは、病気にかかったと確定した日以前1年間に、労働者が事業主から受けた特別給与の総額を算定基礎年額として、365で割った一日当たりの金額です。

遺族(補償)一時金

給付基礎日額の1000日分の一時金を受け取ることができます。

この一時金を受けられるのは以下の2通りの場合です。

遺族年金を受ける遺族が居ない場合
遺族年金を受ける人が失権し、かつ他に年金を受ける遺族が居ない場合で、
すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たない場合

2の場合はすでに支給されている年金の合計額を1000日分から差し引いた金額になります。

 

葬祭料・葬祭給付

労災で死亡した人の葬祭を行うときに受けることができます。
金額は315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた金額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は給付基礎日額の60日分)が給付されます。

うつによる労災の申請方法と流れ

1. 必要な書類を用意する

給付金請求書とその他書類を準備します。
請求する給付金によって給付金請求書の様式が違い、各請求書は厚生労働省のページからダウンロードできます。
添付する書類も申請内容によって変わるので確認し、診断書や出勤簿など必要なものを用意します。

要チェック  労災保険給付関係請求書一覧はこちら

 

2. 書類を記入し提出する

給付金請求書には会社の記入欄もありますが、会社が記入してくれない場合は、そのように書いて提出します。いずれの給付も請求には時効があり、費用の支出が確定した翌日から2年が経過すると請求できなくなるので注意が必要です。
(遺族年金・一時金の場合は、労働者が亡くなった翌日から5年経過すると時効)

書類の提出先は、労働基準監督署になります。

要チェック  全国の労働基準監督署一覧はこちら

 

3. 労基による聞き取り調査

申請後、労働基準監督署の担当官が本人や家族、会社などに対して、様々な内容の聞き取りを行います。

業務上のケガなど、仕事との因果関係がわかりやすいものだと、申請から1か月ほどで調査が終わり認定される場合もありますが、うつ病などの精神疾患や過労死などは調査に1年以上と長い時間がかかることもあります。調査をスムーズに進めてもらうためにも労災を証明する証拠となる書類や証明書はできるだけ集めて提出する必要があります。

どのような聞き取りが行われるかは、以下の資料が参考になります。

要チェック  精神障害等の業務上外の判断のための調査要綱

 

4. 認定の可否

申請し調査が終了すると、労災の認定が判断されます。労災と認定されると給付金が支払われます。労災ではないと判断された場合、3か月以内なら労働局内の労働者災害補償保険審査官に審査請求ができます。

この審査でも業務外(労災ではない)と判断された場合は、厚生労働省の管轄である労働保険審査会に再び審査請求ができますが、多くの場合、一度判断された可否が変わることはなく9割以上が棄却となるようです。

そのため、精神疾患での労災申請では、一番最初の申請段階での証拠固めが重要となります。認定に近づけるために、どのような証拠や書類を準備するべきかは、弁護士など労災申請の専門家に相談しサポートしてもらうのも有効な方法です。

厚生労働省 労災保険相談ダイヤル
TEL:0570-006031  受付時間:月~金 9:00~17:00 [ 土・日・祝日・年末年始除く ]

ご利用の際は、通話料がかかります。

各給付金の請求に必要な主な書類一覧

「治療費」の請求に必要な書類

「療養補償給付たる療養の給付請求書」と看護・移送等にかかった費用の明細とその請求書または領収書
*治療費の現物給付(無料で治療や薬剤の支給)を受ける場合は「療養給付たる療養の給付請求書」が必要、時効はなし

要チェック  療養(補償)給付の請求手続

 

「休業補償」の請求に必要な書類

「休業補償給付支給請求書」または「休業給付支給請求書」
*休業が長期間に及ぶときは1か月ごとに提出し請求する

要チェック  休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続

 

「障害給付」の請求に必要な書類

「障害補償給付支給請求書」または「障害給付請求書」
同じ事由によって障害厚生年金や障害基礎年金などの支給を受けている場合はその支給額の証明書類

要チェック  障害(補償)給付の請求手続

遺族給付

「遺族補償給付請求書」または「遺族給付請求書」
死亡診断書、戸籍謄本や抄本など労働者と請求人の身分関係を証明できるもの等

要チェック  遺族(補償)給付 葬祭料(葬祭給付)の請求手続

 

葬祭料・葬祭給付

「葬祭料請求書」または「葬祭給付請求書」
死亡診断書、死体検案書など死亡の事実と年月日を証明できる書類。ただし合わせて遺族給付の請求をする場合でこれらが添付してあれば不要。

要チェック  葬祭料(葬祭給付)について

おわりに

介護職員として働き始めたときは、どなたもその仕事にやりがいや、人のために働く喜びを見出していたことと思います。職場環境が良いところで、そうした気持ちを持って働き続けられるのが理想ではありますが、介護業界の現状ではそのような職場のほうが少なくなっているのかもしれません。

個人の努力で環境を改善するには限界があり、健康を損なってまで働き続けるのは利用者さんのためにもならないのですから、退職を考えてみることをおすすめします。今回お伝えした労災の申請・給付は、退職後の生活を支えるものになりますし、ほかの介護職員の方々の職場環境を改善するきっかけになるかもしれません。

労災は、働く人を守るための仕組みのひとつですから、介護職をうつで退職してしまった、退職を考えているという方は、ぜひ申請を検討してみてはいかがでしょうか。

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